2019年11月30日土曜日

秋深く...

こっちだよ。

落ち葉の積もった地下通路に妻の声が反響する。

 

...

 

昔ダイエー所沢店だった(閉店時にはイオン所沢店に変わっていたが)場所はもう廃墟のようだった。

 

イオンの営業中からすでにタイムズに変わっていた駐車場に車を停め、暗い階段を歩いて降りる(エレベータは店舗部分にあるはずだが、店舗への入り口は閉鎖されていて、歩いて降りるより他に手だてはなさそうだ)。あちこちに落ち葉が積もっているが、もはやそれを掃除する人もいないのだろう。

 

テリー・ギリアム監督の映画「12モンキーズ」の中で、独房に入れられた主人公コール(ブルース・ウィリス)は、ある日減刑と引き換えに廃墟になった地上への探索行のミッションを与えられる。そこは、致死的なウイルスの世界的流行で人類のほとんどが死に絶えた世界だ(生き残ったわずかな人々は地下での生活を余儀なくされている)。

地上に上がった彼が目にするのは、廃墟のフィラデルフィアに雪が降りかかる風景だった。剥がれかかった映画のポスター。崩れかかったショーウインドーとマネキン。徘徊するライオンや熊...。だが、彼の意識は最初から混濁していて、それが本当にリアルな風景なのかも定かではない(そのあたりのことは後でさりげなく明かされる)。

そこは、物語の終盤コールとキャサリン(マデリーン・ストウ)が変装のための買い物をするはずの場所だ。もちろん探索行を行う現在の(いや未来の)コールにその記憶はない。それはこのずっと前に起こったことであるから...。

 

道路を渡り、プロペ通りを途中で折れて、なじみのカフェにたどり着く。それはとてもこじんまりした店で、3、4人入るともう一杯なので、せっかく行っても入れないことがしばしばだ。でもコーヒーはとても美味しく、店主もとても感じがよくて居心地がよい。妻はコーヒーを、ぼくはシチュードミルクティーを頼む。

 

それから地下通路を通って、元ダイエーの駐車場に戻る。

まだ小さかった2人の子どもを連れてぼくたちが通った20年前にもその地下通路はあまり賑わってはいなかったが、今は人の気配も絶えて、もう長い間誰も足を踏み入れていないかのようだ。

 

物語の最後で、コールは空港の公衆電話から電話をかける。それはカーペット清掃会社の番号で、未来へのホットラインに指定されているのだが、本当に未来に通じているのかはわからない。彼は留守番電話にこう吹き込む。

 

12モンキーズは犯人じゃない。俺はもう未来には帰らない。

 

そもそも未来に帰る方法は、いや地下からぼくたちがクルマを停めた駐車場へ戻る道はあるのだろうか。店舗への地下入口はもちろん閉鎖されていて、右手の階段も地上に登りきったところで封鎖されているのが見える。残るは左手の...。

 

未来からの声のように妻の声が反響する。

 

こっちだよ。