夕暮れ。
帰るまでにあとひと仕事、いやあとふた仕事くらいか?を片づけようと、エレベーターに乗る。まずはコンビニでパンでも買って来ようと、外へ出る。
灼熱の中で、一日中光合成に励んでいた靖国の杜は、その刻(ころ)になるとまるで吐息のように濃い匂いを発散し、かえって日中よりも存在感を増していくかのようだ。
葉裏に潜む闇が一分一秒ごとに濃くなり、しだいに靖国通りは秘密に充ちた気配に覆われていく。
昔あるクライアントに言われた。
広告会社の人たちは皆楽しそうに仕事してますよね、と。
マーケティング部門でプランニングをやっていた頃は、今よりずっと帰りは遅かったが、毎日が楽しくてしかたがなかった。
それから管理部門に移ったが、さすがにこの歳になってくると、楽しいとばかりも言っていられない。
それでも、若い頃に広告の現場で教えられたのは、相手の心にどうやって想いを届け、そこに理解や共感を形づくるかということだ。
どんな仕事をやっていてもそこは変わらない。
そして、誰かに何かを伝えること、相手の心に結像するイメージを想定しながらメッセージをコントロールすることは、永遠にむずかしい。
だから、いつまでもやめられないのだろう。