2004年4月29日木曜日

太郎の話

新婚間もない頃(だからもう10年以上前になるわけだが)、わが家では太郎というウサギを飼っていた。ぼくが飼っていたというよりも、結婚前から妻が飼っていたので、ぼくはどちらかと言うと義理のお父さんのようなものだった。


そんなわけで最初はどうということもなかったのだが、しばらく一緒に暮らしているとだんだん情が移ってくるのか、これが可愛いのだった。


どんなときに可愛いかというと、たとえば朝起きてトーストなんぞ食っているとしよう。わが家ではぼくがいちばん早起きなので、シーンと静まり返った中で新聞など読みながら1人で朝食をとっているわけだが、パンの焼けるいい匂いがしてくるとそそられるのか、太郎も起き出して同じようにエサを食いはじめる。


このときが本当にもう愛おしくてしかたがないときなのだった。何というか、しんと静まり返った世界の中で、独りでいるつもりでふと気づくと、すぐ側にもうひとつの生命があって、ぼくと同じようにゴソゴソと生活を営んでいる。それがまたぼくたち人間とはまったく違った姿かたちをしておりながら、それでいて耳なんかピンと立っちゃっていたりしながら、そいつがぼくと同じように朝飯を食っているというのが何とも可愛くてしようがないのだった。


その時点ですでに随分年寄りのうさぎだったが、それから何年かあとに死んでしまった。今は九州にある妻の実家の庭の片隅に眠っている。