2003年5月17日土曜日

花瓶と娘

3月3日に生まれた子供は女の子だった。


そのときぼくは香港にいた。上海モーターショーのプレゼンテーションのためだった。

ホテルの部屋でまだ覚めやらない頭のまま電話を取ると、お義母さんからの国際電話だった。

午前0時12分生まれました。女の子ですよ。

朝一番でトヨタの係長に話をしたらアドバイスしてくれた。帰ったら直ぐに花を持って病院に行きなさい。そのときに花瓶を買って行くのを忘れないようにね、と。これがポイントだよと。

日本に帰るとすぐにぼくは病院に行った。駅の近くの店で花と、それからもちろん花瓶を買って。まだ冷たい早春の空は気持ちのいいオレンジ色に染まっていた。

はじめて会う娘は、不思議そうな顔で保育器の中からぼくを見上げていた。


それからもう8年が経つ。下の子には悪いが、やはり最初の子供のことは鮮明に覚えているようだ。ちなみに花瓶は好評だった。少なくとも出産の時にいなかった分は挽回したようだった。